「盾」

白川静『常用字解』
「象形。目の上に盾を掲げている形。古い字形はないが、上部は盾を持ち、かざして身を守る形である」

[考察]
字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。しかし漢字を知っていないと、「盾」(金文が古い形)の字形から「たて」の意味だと分かるはずはない。「人」でも「水」でも同じことだ。
白川漢字学説には言葉という視座がすっぽり抜け落ちている。意味とは「言葉の意味」であって字形の意味ではない。意味は字形に求めるべきではなく、言葉の使われる文脈に求めるべきである。古典に次の用例がある。
 原文:龍盾之合
 訓読:竜盾を之(こ)れ合す
 翻訳:[車上に]竜を描いた盾を二つ合わせて立てる――『詩経』秦風・小戎

注釈に「盾は干(たて)なり」とある。『説文解字』では「身を扞(ふせ)ぎ目を蔽ふ所以なり」と説明している。身を防ぐ武具の一つで、「たて」に当たる。形態・用途によって名称が異なるが、目の前を覆って防禦に専用されるたてを古典漢語ではdiuәn(呉音でジュン、漢音でシュン)といい、これを代替する視覚記号を盾とした。
なぜ「たて」をdiuәnというのか。「たて」の形態や機能に着目して発想された語である。「たて」は体を寄り添わせて(身を任せて)頼りにするものである。ここに「本体・本筋になるものに従う」というイメージがある。「ルートに従う」と言い換えてもよい。だから「ルートに従う」というコアイメージをもつ語群(巡・順・循・遵・述・術・率・帥など)との同源意識から、「たて」をdiuәnという言葉で呼ぶのである。
ここから字源の話になる。盾は目が含まれ、その上に|干のような符号がついている。この図形でもって、目の前を覆って身を守る武具を暗示させる。