「純」

白川静『常用字解』
「形声。音符は屯。屯は織物の縁の糸を結びとめた房飾りの形で、そこで屯とどまるの意味がある。屯は純のもとの字で、純は織物の糸のとどまるところ、縁飾りをいう。金文には、屯を純粋の意味に用いている」 

[考察]
白川は屯が縁飾りの意味で、これから純粋の意味になったとしているようである。しかし縁飾りから「混じり気のない」という意味に転じるだろうか。
古典における純の用例を見てみよう。
①原文:今也純儉、吾從衆。
 訓読:今や純は倹なり、吾は衆に従はん。
 翻訳:この頃は絹糸が倹約だから、大衆に合わせよう――『論語』子罕
②原文:於乎不顯文王之德之純
 訓読:於乎(ああ)不顕なる文王の徳の純なる
 翻訳:ああ偉大な文王の徳の純粋さよ――『詩経』周頌・維天之命
③原文:冠衣不純素。
 訓読:冠衣は素を純にせず。
 翻訳:冠や衣は白色の縁飾りをつけない――『礼記』曲礼

①は絹糸の意味、②は混じり気がない意味、③は縁飾りの意味である。古典漢語では①②をdhiuәn(呉音でジュン、漢音でシュン)、③をtiuәn(呉音・漢音でシュン)という。これらを代替する視覚記号として純が考案された。
混じり気(汚れや不純物)がないという意味は縁飾りからの転義ではなく、蚕の糸(絹糸)からの転義である。蚕の繭から引き出したままで、まだ加工していない原糸は純粋そのものである。
純は「屯(音・イメージ記号)+糸(限定符号)」と解析する。屯は植物の根が地下に蓄えられ、芽が地上に出かかる情景を図形化したもの(842「春」を見よ)。前半に焦点を置くと「多くの物を一所に蓄える」「ずっしりと重く垂れる」というイメージを表すことができる(「屯」でも詳述)。純は蚕の繭に蓄えられ、ずっしりと垂れ下がって出るくる糸を暗示させる。この図形的意匠によって①の意味のdhiuәnを表記する。
③は転義で、音を少し変えたもの。「ずっしりと重く垂れ下がる」 というコアイメージから、ずっしりと下に垂れた衣の縁飾りという意味に転じた。