「循」

白川静『常用字解』
「形声。音符は盾。盾は盾を掲げて巡行し、循撫する(安んじ従える)ことをいう。循は武威によって従えることから、すべてことに“したがう、したがえる” の意味となる」

[考察]
盾は「たて」の意味であって、「盾を掲げて巡行し、循撫する」という意味はない。これを根拠に、循を「武威によって従える」の意味とするのは、不合理である。循は人を従える(服従させる)という意味ではない。
循の用例を見てみよう。
①原文:循海而歸。
 訓読:海に循(したが)ひて帰る。
 翻訳:海岸に沿って帰還した――『春秋左氏伝』僖公四年
②原文:義者循理。
 訓読:義なる者は理に循ふ。
 翻訳:義とは道理に従うということだ――『荀子』議兵

①はルートに沿って行く意味、②は筋道・本筋に寄り添って従う意味に使われている。これを古典漢語ではdziuәn(呉音でジュン、漢音でシュン)という。これを代替する視覚記号として循が考案された。
循は「盾(音・イメージ記号)+彳(限定符号)」と解析する。盾は「たて」の意味であるが、実体に重点があるのではなく形態や機能(用途)に重点がある。「たて」は体を寄り添わせて(身を任せて)頼りにするものである。ここに「本体・本筋になるものに従う」「ルートに従う」というイメージがある(846「盾」を見よ)。彳は道や進行と関係があることを示す限定符号である。したがって循は筋道や本筋となるものに寄り添って行く情景を暗示させる。