「順」

白川静『常用字解』
「形声。音符は川。頁は頭に儀礼用の帽子をつけて拝む人の姿であるから、もとは渉し場で行う儀礼をいう字であろう。水ぎわで親を祭る儀礼があり、順はそれを示す字であろう。祭祀をいう字であるから、神意にしたがうというのがもとの意味で、のちすべて“したがう” の意味となる」

[考察] 
形声としながら、形声の説明原理がないので会意的に説いている。頁(拝む人)+川→渡し場で行う儀礼(水際で親を祭る儀礼)→神意に従うという意味を導く。
順にこんな意味があるだろうか。意味とは「言葉の意味」であって字形にあるのではない。字形から意味を引き出すのは誤った方法である。意味は言葉の使われる文脈から求めるべきである。順は古典に次の用例がある。
①原文:順彼長道
 訓読:彼の長道に順ふ
 翻訳:あの長い道に沿って行く――『詩経』魯頌・泮水
②原文:維彼不順 自獨俾臧
 訓読:維(こ)れ彼の不順 自ら独り臧(よ)から俾(し)む
 翻訳:そもそも無道なやつ[暗君]は 自分のことだけお利口さん――『詩経』大雅・桑柔
③原文:知子之順之 雜佩以問之
 訓読:子の之に順ふを知れば 雑佩以て之に問はん
 翻訳:あなたが素直なのを知ったから 帯の玉で尋ねましょう――『詩経』鄭風・女曰鶏鳴

①はルートに沿う意味、②は道理に付き従う意味、③は相手の言うことを聞いて素直である意味に使われている。これを古典漢語であはdhiuәn(呉音でジュン、漢音でシュン)という。これを代替する視覚記号として順が考案された。
古人は「順は循なり」と語源を説いている。そのほかに遵・巡・馴・述・術などとも同源である。これらは「ルートに従う」というコアイメージをもつ。
順は「川(音・イメージ記号)+頁(限定符号)」と解析する。川は「かわ」であるが、実体に重点があるのではなく形態・機能に重点がある。川は大地を穿ち、筋道をなしているもので、この筋道を水が流れて通っている。だから川は「ルートに従う」というイメージを表す記号になる(845「巡」を見よ)。頁は頭部や人体に関わる限定符号。限定符号は図形的意匠を作るための場面設定の働きがある。順は頭を所定のルートに向けて、それに寄り添って行く場面を設定した図形。の図形的意匠によって、①の意味をもつdhiuәnを表記する。
意味はコアイメージによって展開する。ルートに沿う、ルールに寄り添う意味(上の①)から、道理に付き従って逆らわない意味(上の②)、相手の言いなりになる意味(上の③)に展開する。さらに、物事がそれに従って進む筋道・次第の意味(順序・語順の順)、順序通りに進み都合が良い意味(順調・順当の順)を派生する。