「準」

白川静『常用字解』
「形声。音符は隼。説文に“平なり”とあって、水平を測る器をいう。それで平準(平らかなこと)の意味となる」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説く特徴がある。本項では隼からの説明ができず、字源を放棄している。
形声の説明原理とは言葉の深層構造に掘り下げ、コアイメージを捉えて、語源的に意味を説明する方法である。準は隼がコアイメージを示す基幹記号である。隼はハヤブサであるが、実体に重点があるのではなく、形態あるいは生態に重点がある。ハヤブサは飛ぶ速度が極めて速い。獲物を見つけるとまっすぐ一直線に飛び、獲物に襲いかかる。この形態あるいは習性から発想されたのがハヤブサを意味するsiuәn(呉音・漢音でシュン)という言葉である。「まっすぐ」は水平軸に視点を置くと「平ら」というイメージになる。これを利用して生まれたのが準である。
準の用例を見てみよう。
 原文:準也者五量之宗也。
 訓読:準なる者は五量の宗なり。
 翻訳:水盛りは五つの尺度の大本である――『管子』水地
準は水平を計る道具(水盛り、水準器)の意味である。これを古典漢語ではtiuәn(呉音・漢音でシュン)という。これを代替する視覚記号として準が考案された。
準は「隼シュン(音・イメージ記号)+水(限定符号)」と解析する。隼を分析すると、「隹+一」となる。「一」は数詞の「ひとつ」ではなく「まっすぐ」のイメージを示す符号。「一(イメージ記号)+隹(限定符号)」を合わせた隼は一直線にまっすぐ飛ぶ鳥を暗示させる。もちろんこんな鳥はハヤブサだけに限らないが、ハヤブサの特徴を捉えて造語・造形されたもの。隼は「まっすぐ」のイメージから「平ら」のイメージを表すことができる。かくて準は水平を基準にして面が平らかどうかを計る道具を暗示させる。
水平を計る道具(水準器)の意味から、物事を計る目安・尺度の意味が生まれた。これが標準・基準の準である。