「潤」

白川静『常用字解』
「形声。音符は閏。閏の音符はおそらく壬で、壬に妊むの意味があるように、ものが肥大することをいう。それで水がしだいにしみ込んで広まるような状態を潤うという」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説く特徴がある。閏(ものが肥大する)+水→水が次第にしみ込んで広まるという意味を導く。
閏に「ものが肥大する」という意味はない。だいたい閏の王を壬とするのが誤りである。
字形から意味を導くのが白川漢字学説の特徴であるが、図形的解釈をストレートに意味とする。これは図形的解釈と意味を混同している。意味は字形から求めるべきものではなく、言葉の使われる文脈に求めるべきである。潤は次の用例がある。
 原文:浸潤之譖、膚受之愬、不行焉、可謂明也已矣。
 訓読:浸潤の譖(そし)り、膚受の愬(うつた)へ、行はれず、明と謂ふべきのみ。
 翻訳:水がじわじわ染み込むような悪口、肌をじかに切りつけるような訴え、それが取り上げられないのは、明察というものだ――『論語』顔淵

潤は水がたっぷりしみる(うるおう)の意味で使われている。これを古典漢語ではniuen(呉音でニン、漢音でジュン)という。これを代替する視覚記号として潤が考案された。
潤は「閏ジュン(音・イメージ記号)+水(限定符号)」と解析する。閏は暦法における「うるう月」の意味であるが、表層の意味ではなく深層のイメージが重要である。うるう月とは陰暦で平年の十二か月を調整するために設けた余分の月をいう。閏は「門+王(=玉)」に分析できる。門内(つまり家の中)に宝石がたっぷるある状況を設定した図形でもって、「余る」というイメージを作り出した。niuen(閏)という語のコアイメージは「余る」である。したがって潤は水分が有り余るほどたっぷりある状況を暗示させる。
ちなみに日本語の「うるう」は潤の「うるおう」の訓に由来する。