「遵」

白川静『常用字解』
「形声。音符は尊。説文に“循ふなり” とあり、遵と循とは音・意味の近い字である。遵は酒樽(尊)を捧げて巡行することをいう。酒を供えて祭祀を行い、その祭祀に従わせるの意味であろう」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説く特徴がある。尊(酒樽)+辵→酒樽を捧げて巡行する→酒を供えて祭祀を行い、その祭祀に従わせるという意味を導く。
「祭祀に従わせる」というのは祭祀に従事させるという意味か。しかし遵にこんな意味はない。古典における遵の用例を見てみよう。
 原文:遵彼汝墳 伐其條枚
 訓読:彼の汝墳に遵(したが)ひ 其の条枚を伐る
 翻訳:汝ジョの川の堤に沿うて 細枝と太枝を切る――『詩経』周南・汝墳
遵は筋道に沿って行くという意味で使われている。これを古典漢語でtsiuәn(呉音・漢音でシュン)という。これを代替する視覚記号が遵である。
古人は「遵は循なり」と語源を捉えている。循だけでなく盾・巡・順・述・術・率・帥などとも同源で、これらは「ルートに従う」というコアイメージがある。
遵は「尊(音・イメージ記号)+辵(限定符号)」と解析する。尊という語は「ルートに従う」というイメージではないが、「ずっしりと重々しく坐りがよい」「じっと安定する」というイメージがあり、これから「所定の位置を変えない」「定位置から外れない」というイメージに転用できる。辵は歩行・進行に関わる限定符号。したがって遵は決まった位置(道やルート)から外れないで行く情景を暗示させる。この図形的意匠によって上記の意味をもつtsiuәnを表記する。