「処」
旧字体は「處」である。

白川静『常用字解』
「会意。虎と几とを組み合わせた形。虎が几(腰かけ)に腰かけている形である。虎は虎の皮を身に着けた人で、戦争に先だって、虎の皮を着けて戯・劇などの戦勝を祈る模擬儀礼を行うことがあったが、その儀礼を行う人が腰かけている形である。いかめしく装って腰かけていることを処という。それで“おる、聖所におる”の意味となる」 

[考察]
虎と几に分析し、虎が床几に腰掛けている形だという。虎はトラではなくトラの皮を着た人だという。奇妙な解釈というほかはない。証拠のない戦勝を祈る模擬儀礼を持ち出し、トラの皮を着た人はその儀礼を行う人だという。トラの皮を着た人がいかめしく腰掛けていることから「聖所におる」という意味が出たという。
字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法であるが、あまりにも迂遠な意味の導き方である。意味は「言葉の意味」であって、字形に属するものではない。言葉に内在する概念である。意味は言葉の使われる文脈からしか出てこない。古典における處の用例を見てみよう。
①原文:此邦之人 不可與處
 訓読:此の邦の人 与(とも)に処るべからず
 翻訳:この国の人たちとは 一緒に居ることはできない――『詩経』小雅・黄鳥
②原文:遵海濱而處。
 訓読:海浜に遵ひて処る。
 翻訳:海辺に沿って住んでいる――『孟子』尽心上

①はある場所や状態に身を置く意味、②は腰を落ち着けて住まう意味で使われている。これを古典漢語ではt'iag(呉音・漢音でショ)という。これを代替する視覚記号として處が考案された。
處は「処(音・イメージ記号)+虍(限定符号)」と解析する。処は「几+夂」に分析する。几は小さな坐具の形(258「机」を見よ)。夂は下向きの足の形で、降りたり下がったりする動作に使われる限定符号である。処は足を止めて床几に腰を下ろす情景を設定した図形。この図形的意匠で「(ある場所に)腰を落ち着ける」というイメージを表すことができる。虍はトラと関係があることを示す限定符号。限定符号は図形的意匠を作るための場面設定の働きがある。また限定符号は比喩として使われることもある。處はトラが縄張りにじっと構えている情景を設定した図形である。トラの蟠踞を比喩とし、一定の場所にじっと落ち着く、ある場所に定着することを暗示させる。
「(ある場所に)腰を落ち着ける」「定着する」というコアイメージから①②の意味が実現された。