「署」

白川静『常用字解』
「形声。音符は者。上部は网あみの形である。官署の門に標識を著けることがあるので、署はその門屏のある所。そこには守衛の詰所があった、その門の詰所が署であり、詰所のある“やくしょ”の意味となる」

[考察]
者から説明できないので、字源を放棄している。意味の説明もおかしい。署は「門屏のある所」だという。これは「守衛の詰所」であろうか。こんな意味は署にはない。「門の詰所」の意味から「詰所のある役所」の意味になったという。意味展開に必然性がない。
署は古典に次の用例がある。
①原文:時換吏卒署。
 訓読:時に吏卒を換へて署す。
 翻訳:時々官吏や兵士を換えて配置する――『墨子』備城門
②原文:署位之表也。
 訓読:署は位の表なり。
 翻訳:ポストは位の標識である――『国語』魯語

①は人員をポストに配置する意味、②は人を配置した持ち場やポストの意味で使われている。これを古典漢語ではdhiag(呉音でジョ、漢音でショ)という。これを代替する視覚記号として署が考案された。
署は「者(音・イメージ記号)+网(限定符号)」と解析する。者は「(多くの物が)一所に集中する」「一点にくっつける」というイメージがある(861「暑」、759「者」を見よ)。网は網と関わる限定符号。限定符号は図形的意匠を作るための場面設定の働きがある。またそれは比喩にもなる(比喩的限定符号)。署は網の目のような位置に人員を張りつける情景を設定した図形である。この図形的意匠によって①②の意味をもつdhiagを表記する。
官署・本署などは役所の意味であるが、これは②からの派生義である。ポスト(いろいろな部署)が網の目のように配置されていることから役所という使い方が生じた。