「緒」

白川静『常用字解』
「形声。音符は者。者は集落を囲むお土居(土の垣)の中に呪禁として、曰(祝詞を入れる器であるᆸの中に祝詞のある形)を埋めて、侵入者を堵絶するの意味で、緒とは結びとめた糸の端をいう」

[考察]
者を「お土居の中に呪禁の器を埋めて侵入者を堵絶する」の意味とすること自体が理解し難いが(そんな意味は者にあり得ない)、その意味から「結びとめた糸」の意味に展開させるのは更に唐突であり、理解に苦しむ。
言葉という視座がなく、字形から意味を導くのが白川漢字学説の特徴であるが、語源の歯止めがないため、字形の恣意的解釈に陥りがちである。また字形の解釈をストレートに意味とし、図形的解釈と意味が混同される。
意味とは「言葉の意味」である。意味は字形に求めるべきではなく、言葉の使われる文脈に求めるべきである。緖は古典に次の用例がある。
①原文:三事就緖
 訓読:三事緖に就け
 翻訳:三卿は任務につきなさい――『詩経』大雅:常武
②原文:纘禹之緒
 訓読:禹の緒を纘(つ)ぐ
 翻訳:禹の事業を継ぐ――『詩経』魯頌・閟宮

①は後に続くものの発端、物事の始め・始まり、仕事の発端という意味、②は最初の導きによって後に続く事柄(後に引き継がれていく事業)の意味で使われている。これを古典漢語ではd(z)iag(呉音でジョ、漢音でショ)という。これを代替する視覚記号として緖が考案された。
上はいちばん古い用例であるが、漢代以後には「いとぐち」という具体的な意味が現れる。これが最初の意味として存在したかは不明だが、想定することはできる。
緖は「者(音・イメージ記号)+糸(限定符号)」と解析する。者は「一所に集まる」というイメージがある(861「暑」、759「者」を見よ)。緖は糸を紡ぐ際、蚕の原糸を寄せ集めて引き出す先端(いとぐち)を暗示させる。この意匠によって①の物事の発端という意味をもつ d(z)iagを表記する。