「諸」

白川静『常用字解』
「形声。音符は者。者は集落をとり囲むお土居(土の垣)の中に、曰(祝詞を入れる器であるᄇの中に祝詞のある形)を埋め、外からの侵入者を防ぐための呪禁としたもの。それをお土居の各所に埋めたので、諸は“もろもろ、おおい” の意味となる」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説くのが特徴である。者を「お土居の中に呪禁の器を埋めたもの」とし、お土居の各所に埋めたから、諸は「もろもろ」の意味になるという。者にそんな意味があるはずもないが、お土居の各所に埋めるという事態も必然性がない。だから意味展開に必然性がない。
諸は古典に次の用例がある。
 原文:畏我諸兄
 訓読:我が諸兄を畏る
 翻訳:私の兄たちが怖い――『詩経』鄭風・将仲子
諸は助辞(助字)以外は単独では用いず「諸~」の形で、多くの(もろもろの)という意味である。複数を作る用語である。これを古典漢語ではtiәg(呉音・漢音でショ)といい、諸をその視覚記号とする。『詩経』では諸兄のほかに諸姫、諸姑、諸舅、諸父、諸友、諸侯、諸宰などの用例がある。
諸は「者(音・イメージ記号)+言(限定符号)」と解析する。者は「(多くの物を)一所に集中させる」というイメージがある(861「暑」、759「者」を見よ)。言は言葉と関係があることを示す限定符号。限定符号は図形的意匠を作るための場面設定の働きもある。諸は言語行為の場を設定したもので、多くのものを一つにひっくるめて言い表す言葉という意匠に仕立てた図形である。この図形的意匠によって上記の意味をもつtiәgを表記する。