「女」

白川静『常用字解』
「象形。跪いている女の人の形。手を前で重ねて、うやうやしく霊所を拝んでいる形である」

[考察]
字形の説明に終始し、言葉を無視するのが白川漢字学説の特徴である。意味は字形から出るのではなく、言葉が使われる文脈から出る。女は次のような文脈で使われている。
 原文:于嗟女兮 無與士耽
 訓読:于嗟(ああ)女よ 士と耽る無かれ
 翻訳:ああ女よ 男と快楽に耽ってはだめ――『詩経』衛風・氓
女は士と一緒に用いられることが多い。未婚の若い男が士、未婚の若いおんなが女である。これを古典漢語ではniag(呉音でニョ、漢音でヂョ)という。これを代替する視覚記号として考案されたのが女である。
古人は「女は如なり」と語源を説いている。女のグループ(如・奴・汝)だけでなく、弱・若・柔・嬢などとも同源である。これらは「柔らかい」というコアイメージがある。おんなの身体的特徴を捉えたのがniagという言葉である。
図形の女は両手を前に組み、跪いている人を描いている。これを拝礼に結びつけるのが白川説だが、niagという言葉を代替し再現させる記号であるから、体をくねくねと曲げて柔らかい姿態に視点がある。言葉のイメージが図形を見るポイントである。言葉を無視すると字形の恣意的な解釈に陥る。