「叙」
正字(旧字体)は「敍」である。

白川静『常用字解』
「会意。余は把手のついた大きな針の形。攴は木の枝の形(卜)のものを手(又)に持ってうつの意味。叙は大きな針で刺し、膿を取り除いて治療することをいう。それで痛みが緩やかになり、しだいに回復するので、“順序を追ってする、順序を追って説く”の意味となる」

[考察]
徐と除は形声にしている。叙だけ会意とするのは解せない。白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説く特徴がある。余(大きな針)+攴(打つ)→大きな針で刺し膿を取り除いて治療するという意味を導く。これから「順序を追って説く」という意味に展開させる。
「針」と「打つ」から膿を取り除いて治療するという意味が出るのかが疑問だが、それから「順序を追って説く」という意味になるというのがもっと大きな疑問である。
字形から意味を導くのは無理がある。というよりも間違った方法である。意味とは「言葉の意味」であって、字形から出るものではない。言葉の使われる文脈から出るものである。叙は次のような文脈で使われている。
①原文:凡邦事、令作秩敍。
 訓読:凡そ邦事、秩叙を作(な)さしむ。
 翻訳:国家に関わることにおいて、秩序を正しくさせる――『周礼』地官・郷師
②原文:別而敍之。
 訓読:別けて之を叙す。
 翻訳:分けて叙述する――『漢書』外戚恩沢侯表

①は次第に展開する順序の意味、②は順序立てて述べる意味で使われている。これを古典漢語でd(z)iag(呉音でジョ、漢音でショ)という。これを代替する視覚記号として敍が考案された。
敍は「余(音・イメージ記号)+攴(限定符号)」と解析する。
余の原形は先端が㐃の形で下部に柄のつた道具である。土を削る鍬の類と考えてよい。これに八(左右に分ける符号)を添えたのが余である。でこぼこした土を農具(鍬の類)で平らにかき分けて均す情景を設定したのが余である。この図形的意匠によって、「横に平らに伸ばす」というイメージを表すことができる。このイメージは「平らに(段々と)押し伸ばす」「徐々に伸びて広がる」というイメージにも展開する(758「舎」を見よ)。攴は動作と関係する限定符号。したがって敍は中心から周辺に波及していくように段々と伸びて広がる状況を暗示させる。この図形的意匠によって①の意味をもつd(z)iagを表記する。
意味はコアイメージによって展開する。「段々と押し伸ばす」「徐々に伸びて広がる」というイメージから、話を次第に押し広げて展開させるという意味に転じた。これが上の②の意味である。叙述の叙とはこれである。