「除」

白川静『常用字解』
「形声。音符は余。余は把手のついている大きな針。この針を呪具として使用し、土中に刺して地下にひそむ悪霊を取り除く。阜(阝)は神が天に陟り降りするときに使う神の梯の形。その前の地に大きな針を突き刺して邪気を祓い清めること、“はらう”ことを除という」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説く特徴がある。余(大きな針)+阜(神が天に上り下りする梯)→大きな針を突き刺して邪気を祓い清めるという意味を導く。
「叙」の項では余は膿を取り除く手術用の針だと言い、本項では土中に突き刺して悪霊を取り除く針だと言う。こんな針が存在するだろうか。また神が天地を上り下りする梯が存在するだろうか。その梯の前の地で針を刺して邪気を祓い清めるとはどういうことか。神がするのか、人がするのか。除がこんな意味を表すだろうか。いろいろな疑問が浮かぶ。
字形から意味を引き出そうとするのは間違った方法である。意味とは「言葉の意味」であって字形にあるのではない。字形ではなく、言葉の使われる文脈に求めるべきである。除は古典に次の用例がある。
①原文:蔓草猶不可除、況君之寵弟乎。
 訓読:蔓草猶除くべからず、況んや君の寵弟をや。
 翻訳:蔓草すら除けないのに、ましてや君主の愛弟ときたら――『春秋左氏伝』隠公元年
②原文:今我不樂 日月其除
 訓読:今我楽まざれば 日月其れ除(さ)らん
 翻訳:今楽しまないと 月日は去ってしまうだろう――『詩経』唐風・蟋蟀

①は取り除く意味、②は去る意味で使われている。これを古典漢語ではdiag(呉音でヂョ、漢音でチョ)という。これを代替する視覚記号として除が考案された。
①と②は関係がなさそうに見えるが、コアイメージを捉えると明確に意味展開が分かる。
除は「余(音・イメージ記号)+阜(限定符号)」と解析する。余は「平らに押し伸ばす」というイメージがある(868「序」、869「叙」、870「徐」を見よ)。阜は盛り上げた土の形で、土や盛り土などと関係があることを示す限定符号。限定符号は図形的意匠を作るための場面設定の働きもある。除は道を塞いでいる土を押しのけて道の通りをよくする情景を設定した図形である。この意匠によって「古くなったもの(状態)を押しのけて新しいもの(状態)にする」というイメージを暗示させることができる。
古くなったもの(状態)を押しのけて新しいもの(状態)にする」というのが基本の意味である。具体的な文脈では、邪魔なもの、古いもの、汚れたものなどを取りのけてきれいな状態にするという意味が実現される。これが上の①の意味。また、古い時間が去り新しい時間が来るという意味に展開する。これが上の②の意味である。除夜の除はこの意味である。