「小」

白川静『常用字解』
「象形。小さなものが散乱している形。そのものの形が小さく、数が少ないので、“ちいさい、すこし” の意味となる。散乱しているものは、おそらく小さな貝であろう」

[考察]
小さなもの(貝)が散乱している形から「ちいさい」の意味が出たという。字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。しかし意味は字形から来るものではなく、言葉に内在する概念である。言葉が使われる文脈から意味は出る。小は次のような文脈で使われている。
①原文:嘒彼小星 三五在東
 訓読:嘒ケイたる彼の小星 三五東に在り
 翻訳:ちらちらまたたく小さな星は 三つまた五つと東の空に――『詩経』召南・小星
②原文:民亦勞止 汔可小康
 訓読:民亦労す 汔(ほとん)ど小康すべし
 翻訳:民は働き疲れている しばし休まねばならぬほど――『詩経』大雅・民労

①は形や規模が小さい意味、②は量や時間・程度がわずかの意味で使われている。これを古典漢語ではsiɔg(呉音・漢音でセウ)という。これを代替する視覚記号として小が考案された。
小は三つの点を配置した象徴的符号である。具体的な物を描いたわけではなく、小点が点々とある図形によって、ばらばらになった状態を暗示させる。ばらばらになった状態の一点に焦点を置いて、「形状がちいさい」の意味をもつsiɔgを表記したものである。
小と少は非常に似ているが、形に視点を置いたのが小、数量に視点を置いたのが少である。古代の日本人は小に「ちいさい」、少に「すくない」の訓をつけた。適切な訓である。