「升」

白川静『常用字解』
「象形。勺(ひしゃく)の中にものがある形。勺でものを挹んでその量をはかることを示す。その大きさが一定量のものであるから、量器の名となり、またその分量をいう名となった」

[考察]
升は古典では「ます」の意味のほかに次の用例がある。
①原文:升彼虛矣 以望楚矣
 訓読:彼の虚に升(のぼ)り 以て楚を望む
 翻訳:あの大きな丘に登り 楚のあたりを眺めやる――『詩経』鄘風・定之方中
②原文:如月之恆 如日之升
 訓読:月の恒コウの如く 日の升(のぼ)るが如し
 翻訳:弓張り月の弦のように 太陽が昇るようにとこしえに――『詩経』小雅・天保

①は登る、②は昇るの意味である。これらの意味と「ます」の意味とはどんなつながりがあるのか。言葉の深層構造に掘り下げ、コアイメージを捉えないと、それは永久に分からないだろう。白川は昇や陞の仮借とする。しかし昇・陞は升の後にできた字である。仮借というのはおかしい。白川漢字学説は言葉という視点がなく、コアイメージという概念もないので、意味展開を合理的に説明する理論を持たない。これも白川学説の限界である。
王力(現代中国の言語学者)は騰・登・乗・升を同源としている(『王力古漢語字典』)。これらのほかに、上・尚・承・蒸・称などとも近い。これらは「上に(高く)上がる」というコアイメージがある。物をはかる際に器を高く持ち上げることに着目して生まれた語がthiəng(呉音・漢音でショウ)である。これが「ます」の意味である。
一方、「上に(高く)上がる」というコアイメージから、高い所に登るという意味(上の①)、空中に高く上がるという意味(上の②)が生まれる。これらもthiəngといい、升と表記された。
升は楷書の字体であるが、金文では「斗+一」、篆文では「斗+丿」になっている。斗がますの形である。だから升は斗(ます)を持ち上げて物をはかる場面を設定した図形である。この意匠によって「上に(高く)上げる」というイメージを暗示させることができる。