「少」

白川静『常用字解』
「象形。小さな貝を紐で綴った形。綴った貝の数が少ないので、“すくない、すこし” の意味となる」

[考察] 
字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。小さな貝を紐で綴り、その綴った貝が少ないから「すくない」の意味になったという。小が「小さな貝が散乱している形」で、その貝を紐で綴った形が少だという。散乱したものを紐で綴れば、まとまったものの意味になりそうなものだが、数が少ない意味とは解せない。
字形から意味を導くのは無理である。というよりも間違った方法である。意味とは「言葉の意味」であって、言葉の使い方である。意味は文脈でしか知りようがない。少は次のような文脈で使われている。
①原文:覯閔既多 受侮不少
 訓読:閔(うれ)ひに覯(あ)ふこと既に多く 侮りを受くること少なからず
 翻訳:心の病にもたびたび会った 侮られたことも数知れず――『詩経』邶風・柏舟
②原文:今少一人。
 訓読:今一人を少(か)く。
 翻訳:今、人数が一人足りない――『史記』平原君列伝

①は数量がすくない意味、②は数が減って足りない意味で使われている。これを古典漢語ではthiɔg(呉音・漢音でセウ)という。これを代替する視覚記号として少が考案された。
少は甲骨文字では四つの点を配置した象徴的符号であるが、小との同源意識から字体が変わり、「小(音・イメージ記号)+丿(イメージ補助記号)」になった。小は「ばらならで小さい」「小さくばらばらになる」というイメージがある(872「小」を見よ)。丿は斜めに払うことを示す符号である。したがって少は本体を削ぎ取って(ばらばらにして)減らす状況を暗示させる図形。この図形的意匠によって上記の①と②の意味をもつthiɔgを表記する。