「匠」

白川静『常用字解』
「会意。匚は編み籠の形で、簠(穀物を供えるときの器で、竹を編んで作った曲げ物)という竹器の形である。斤は手斧の形。手斧を使って曲げ物を作る竹を割き、木を削る者が匠である。曲げ物を作る人の意味が拡大されて、“たくみ”の意味となる」

[考察]
字形から意味を引き出すのが白川漢字学説の方法である。匚(編み籠、曲げ物)+斤(手斧)→曲げ物を作る人という意味を導く。
白川漢字学説は字形の解釈をストレートに意味とし、図形的解釈と意味を同一視する傾向がある。
意味とは何か。意味は「言葉の意味」であることは言語学の常識である。意味は字形に求めるべきではなく、言葉の使われる文脈に求めるべきである。匠は次の用例がある。
①原文:女媧有體 孰制匠之
 訓読:女媧体有り 孰(たれ)か之を制匠する
 翻訳:女媧[宇宙創造の女神]には体があった 誰が彼女を作ったのか――『楚辞』天問
②原文:大匠誨人必以規矩。
 訓読:大匠人に誨(をし)ふるに必ず規矩を以てす。
 翻訳:優れた大工はコンパスと定規を用いて人の教える――『孟子』告子上

①は物を作り出す意味、②は物作りの人(大工、職人)の意味で使われている。これを古典漢語でdziang(呉音でザウ、漢音でシヤウ)という。これを代替する視覚記号として匠が考案された。
匠は「匚+斤」に分析する。匚は⊏形の枠の形で、箱に関わる限定符号に用いられる。斤は刃物を対象に近づけて切ろうとする図形で、「断ち切る」というイメージに使われる(382「斤」を見よ)。「斤(イメージ記号)+匚(限定符号)」を合わせた匠は、素材を断ち切って箱を作る場面を設定した図形。この図形的意匠によって上の①の意味をもつdziangを表記する。
dziang(匠)という語は創・作・初などと同源で「切れ目を入れる」というコアイメージがある。素材に切れ目を入れることが物を作る最初の行為だる。