「抄」

白川静『常用字解』
「形声。音符は少。少は小さな貝を紐で綴った形で、散乱している小さな貝を集めて綴ることをいう。抄は小さなものをすくって取るような取り方をいい、“すくう、かすめる” の意味となる」

[考察]
形声の説明原理がなくすべて会意的に説くのが白川漢字学説の特徴である。少(散乱している小さな貝を集めて綴る)+手→小さなものをすくって取るという意味を導く。
しかし「散乱している小さな貝を集めて綴る」の意味からなぜ「小さなものをすくって取る」という意味が出るのか。意味の展開に必然性がない。字形から意味を導くのは無理である。
抄はかなり遅く作られた字で、用例は漢代以後の文献に現れる。
 原文:東抄三輔。
 訓読:東のかた三輔を抄す。
 翻訳:東方では三輔地方を奪い取った――『後漢書』五行志
抄はかすめ取る意味で使われている。『釈名』(後漢、劉熙撰)では「操は抄なり」とあり、抄は操・掃・搔などと同源で、「表面をかすめる」というコアイメージをもつ語である。
抄は「少(音・イメージ記号)+手(限定符号)」と解析する。少は「ばらばらに削ぎ取る」というイメージがある(874「少」を見よ)。抄は物の表面を削ぎ取る状況を暗示させる。表面を削ぎ取るようにして物を取ることが「かすめる」ということである。ここから、表面を掬い取る意味(抄紙の抄)、原本の表面から写し取る意味(抄写の抄)、抜き書きする意味(抄本の抄)に展開する。