「承」

白川静『常用字解』
「会意。卩と廾とを組み合わせた形。卩は跪く人の形。廾は左右の手を並べた形で、承は身をかがめている人を左右の手で捧げ上げている形である。人を捧げ上げ、下から承けている形である。それで尊い人の命令を承け、つつしんで行うの意味となる」

[考察]
字形の解剖に問題がある。「卩+廾」は原形だが、承には手が含まれている。「卩+廾+手」としないと不備である。字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。卩(跪く人)+廾(左右の手)→人を捧げ上げ下から承ける→尊い人の命令を承け謹んで行うという意味を導く。こんな意味が承にあるだろうか。
意味とは「言葉の意味」であって、字形から来るものではなく、言葉が使われる文脈から来るものである。承は古典で次の用例がある。
①原文:大糦是承
 訓読:大糦タイシを是れ承く
 翻訳:祭りの供物を捧げ持つ――『詩経』商頌・玄鳥
②原文:子孫繩繩 萬民靡不承
 訓読:子孫縄縄たり 万民承けざるは靡(ん)し
 翻訳:子孫は絶え間なく すべての民が受け継いでいく――『詩経』大雅・抑
③原文:不恆其德、或承之羞。
 訓読:其の徳を恒にせざれば、或いは之(これ)が羞を承く
 翻訳:徳を不変にしないと、恥を受けることがある――『易経』恒

①は捧げて持ち上げる意味、②は前のものを次のものが受け継ぐ意味、③は相手を意向を受け入れる意味で使われている。これを古典漢語ではdhiәng(呉音でジョウ、漢音でショウ)という。これを代替する視覚記号として承が考案された。
承を分析すると「丞+手」となる。丞は「卩+廾+凵(一は省略形)」に分析できる。卩はしゃがんだ人。廾は両手。凵はくぼみを示す符号。これらを合わせた丞は、穴に落ちた人を両手ですくい上げる情景を設定した図形。拯(すくう)の原字である。丞は「上に持ち上げる」「上に上がる」というイメージを表す記号になりうる(936「蒸」を見よ)。「丞(音・イメージ記号)+手(限定符号)」を合わせた承は、両手で捧げて持ち上げる情景を設定した図形である。この意匠で上の①の意味をもつdhiәngを表記する。②③は①からの転義である。