「咲」

白川静『常用字解』
「形声。音符はAしょう。Aは人が両手をあげている形で、笑い興ずる姿である。咲は古い用例はなく、もとの字は笑で、“わらう” の意味であった。花がひらくことを、古くは花開くといったが、花咲くのように“さく”の意味に使うようになったのは、花の開く様子を人の口もとのほころびる様子にたとえたのであろう」
A=[八+天](縦に書いた形)

[考察]
关(A)がなぜ「人が両手をあげている形」なのか、これがなぜ「笑い興ずる姿」なのかぴんと来ない。「わらう」の意味と「さく」の関係もはっきりしない。
咲は次の用例がある。
 原文:上嘿然而咲。
 訓読:上ショウ嘿然として咲(わら)ふ。
咲は「わらう」という意味で使われている。これを古典漢語ではsiɔg(呉音・漢音でセウ)という。これを表記する文字として笑と咲があるが、これらは異体字である。关(A)が本字で、笑と咲に分化した。
咲は「A(=关)(音・イメージ記号)+口(限定符号)」と解析する。天は夭が変わったもの。夭は体をくねらせ頭をかしげる人の形。八は↲↳の形に分かれることを示す符号で、具体的な場面では息や声が分かれ出る様子を示している。八と夭を合わせたAは、人が声を立ててわらう情景を設定した図形。この図形で「わらう」を意味するsiɔgを表記できる。『漢書』に「壱イツに关(わら)ひ相楽しむ」という用例があり、注釈に「关は古の笑の字」とある。咲はこれに限定符号の口を添えたもの。
咲を「さく」に用いるのは日本的展開である。漢詩文で花が開くことを比喩的に「花咲(わら)ふ」と表現することがある。ここから日本人は「さく」の漢字表記に咲を使った。