「宵」

白川静『常用字解』
「形声。音符は肖。宀は祖先を祭る廟の屋根の形。宀の下は、金文の字形では、小さな肉が骨に連なっている形の肖ではなく、小と月にみえる。それならば宵は、廟の中に月光がわずかにさしこんでいる形で、“よい、よる” の意味となる」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説く特徴がある。宀(廟の屋根)+小+月→廟の中に月光がわずかにさしこむ→よい・よるという意味を導く。
字形の解剖に疑問がある。肖を「小+月」と見るのは誤りで、「小+肉」が正しい。また月光がわずかにさしこむことから「よい・よる」の意味を導くのもおかしい。月光のない夜もある。またなぜ先祖を祭る廟なのかも分からない。
宵は「肖(音・イメージ記号)+宀(限定符号)」と解析する。肖は「小(音・イメージ記号)+肉(限定符号)」を合わせたもの。小は「ばらばらに削ぎ取る」というイメージから「小さく削る」というイメージに展開する。肖は素材を削って原物に似せた小さいな像を造る情景を暗示させる(648「削」を見よ)。小・肖とも「小さい」というイメージがある。したがって宵は家の中に差し込む光が小さくなる状況を暗示させる。この図形的意匠によって、夜間の前半部分(よい)の意味をもつ古典漢語siɔg(呉音・漢音でセウ)を表記する。