「笑」

白川静『常用字解』
「象形。もとの字形はないが、巫女が両手をあげ、身をくねらせて舞いおどる形。神に訴えようとするとき、笑いながらおどり、神を楽しませようとする様子を笑といい、“わらう、ほほえむ” の意味となる」

[考察]
いろいろな疑問点がある。もとの字形はないから「笑」の字形から解釈するのであろう。しかし「竹+夭」から、巫女が身をくねらせて舞いおどる姿と取れるだろうか。また巫女が神に訴える際に笑いながら踊るというのはどういうことか。また神を楽しませるとはどういうことか。
字形の解釈から意味を導くなら「舞う」や「踊る」の意味になりそうなもの。なぜ「わらう」の意味になるのか。必然性があるとは言えない。
意味とは「言葉の意味」であって、字形に属する概念ではない。言葉に内在する概念である。意味を知るには文脈が必要である。言葉が使われる文脈で意味を知ることができる。笑は古典で次のような文脈で使われている。
 原文:顧我則笑 謔浪笑敖
 訓読:我を顧みて則ち笑へ 謔浪し笑敖す
 翻訳:私を振り向いてほほえんで!跳ね返るのはふざけた笑い――『詩経』邶風・終風
初めの笑はにっこりとほほえむの意味、後の笑はばかにして笑う(あざわらう)の意味である。これを古典漢語ではsiɔg(呉音・漢音でセウ)という。これを代替する視覚記号が笑である。
笑と咲は異体字である。关([八+夭]の変形)が本字であったと考えられる。これについては886「咲」で既述。繰り返すと、夭は体をくねらせ頭をかしげる人の形。八は↲↳の形に分かれることを示す符号で、具体的な場面では息や声が分かれ出る様子を示している。八と夭を合わせた关は、人が声を立ててわらう情景を設定した図形。この図形で「わらう」を意味するsiɔgを表記できる。しかしこの字はあまり使われず、笑と咲に字体が変わった。笑は关の上部の八が艹(艸)に変わり、さらに竹に変わったものである。