「渉」
正字(旧字体)は「涉」である。

白川静『常用字解』
「会意。水と步とを組み合わせた形。水の流れを歩いて渡ることをいい、“わたる” の意味となる」

[考察]
字形から意味を引き出すと上のように解釈できる。しかし意味は字形から出るものではなく、言葉の使われる文脈から出るのものである。涉は次のような文脈で使われている。
①原文:送子涉淇 至于頓丘
 訓読:子を送りて淇を渉り 頓丘に至る
 翻訳:あなたを送って淇の川を渡り 頓丘までやってきた――『詩経』衛風・氓
②原文:匏有苦葉 濟有深涉
 訓読:匏ホウに苦葉有り 済セイに深き渉し有り
 翻訳:ふくべの葉が苦い頃 済の渡し場深くなる――『詩経』邶風・匏有苦葉

①は川を渡る意味、②は渡し場の意味で使われている。これを古典漢語でdhiap(呉音でゼフ、漢音でセフ)という。これを代替する視覚記号として涉が考案された。
渡し場の意味があるから舟が予想される。だから①の意味は渡る手段は歩行でも舟でもよいことが分かる。
涉は「步(イメージ記号)+水(限定符号)」と解析する。字形から意味を引き出すと「歩いて水を渡る」だが、意味素に歩行は必ずしも含まれない。