「粧」

白川静『常用字解』
「形声。音符は庄。もとの字は妝に作り、音符は爿。金文の字形は妝の女の脇に曲線をかいており、その曲線は安・保の古い字形にも加えられているもので、新しい霊を乗り移らせる衣であろう。それで粧(よそおう)とは、外面を飾って新しい霊を迎えるという意味であろう」

[考察]
白川は粧を「外面を飾って新しい霊を迎える」という意味とするが、粧にこんな意味はあり得ない。白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説く特徴があるが、本項は会意的に説明できているとは言えない。肝心の爿からではなく、爿の脇にある曲線から説明するのは奇妙である。
形声の説明原理とは言葉の深層構造に掘り下げ、コアイメージを捉えて、語源的に意味を説明する方法である。
妝→糚→粧と字体が変わった。妝・糚は漢代、粧は後漢以後に登場する。妝に含まれる爿がコアイメージを提供する記号である。爿はベッドを描いた図形で、「細長い」というイメージを示す記号になる(877「床」を見よ)。「細長い」というイメージは「ほっそりとしてスマートである」というイメージに展開する。したがって妝は「爿ショウ(音・イメージ記号)+女(限定符号)」を合わせて、女がスマートに身繕いする情景を設定した図形。
次に字体は「莊(音・イメージ記号)+米(限定符号)」を合わせた糚に変わった。莊は「壯(音・イメージ記号)+艸(限定符号)」を合わせたもの。壯も莊も「丈が長い(高い)」というイメージがあり、これも「形がスマートである」というイメージを示す記号になる(「壮」、「荘」で詳述する)。米は「こめ」だが、顔料にも使われる。したがって糚は白粉などの顔料で容姿をスマートに整える情景を暗示させる図形。莊の俗字が庄なので、「庄+米」を合わせた粧となった。
以上の図形的意匠が作られて、顔料(白粉や紅など)を使って顔形を整える(よそおう、化粧する)ことを意味するtsïang(呉音でシヤウ、漢音でサウ)という言葉を表記した。