「象」

白川静『常用字解』
「象形。象の形。“ぞう” のほかに、像・様と通用して“かたち、ありさま”の意味にも用いる」

[考察]
動物のゾウを描いた象形文字で、ゾウの意味に使うことは言うまでもないが、気象や現象の象、「姿・形」の意味に使われる。これはなぜか。白川は像・様の仮借としている。
この謎について早くも戦国時代に韓非は次のように述べた。
 原文:人希見生象也。而得死象之骨、案其圖以想其生也。故諸人之所以意想者、皆謂之象也。 
 訓読:人生象を見ること希也。而して死象の骨を得、其図を案じて以て其の生を想ふ也。故に諸人の意想する所以の者、皆之を象と謂ふ也。
 翻訳:生きたゾウはめったに見られない。死んだゾウを手に入れて、その図に照らし合わせて、生きたゾウの姿を思い浮かべる。だから心に想い描くものを象というのである。(『韓非子』解老)

紀元前3世紀にこんな意味論を述べた人がいるというのは驚きである。もっとも言語の意味展開の仕方に合うかどうかは疑問の余地がある。
古典漢語における造語・造形法では、物の実体から離れて、その形態・機能に重心を移して、造語・造形するという方法がある。動物のゾウを古典漢語ではziang(呉音でザウ、漢音でシヤウ)といい、象の図形で表記した。一方、ゾウの形態的特徴から「大きく目立つ姿」というイメージを捉え、これも同じ音で呼んだ。また同じ図形で表記するようにした。かくて象の一字にゾウの意味と、「物の姿・形」の意味が同居するようになった。後に後者の意味には像も作られた。現在では象と像が使い分けられている。