「奨」
旧字体は「奬」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は將。將は脚のついた机(爿)の上に、手(寸)で肉を供えている形。下部の大は犬、犠牲の犬である。犠牲の肉を供え、神にすすめて祭ることを奨といい、肉をすすめるの意味となる」

[考察]
字形から意味を引き出して、「肉をすすめる」の意味とするが、そんな意味は奨にない。奨は次のように使われている。
①原文:武爲人仁厚、好進士奬。
 訓読:武の人と為り仁厚く、好んで士を進めて奨む。
 翻訳:何武の性格は仁義が厚く、好んで士を推奨した――『漢書』何武伝
②原文:皆奬王室、無相害也。
 訓読:皆王室を奨(たす)け、相害すること無し。
 翻訳:みんな王室を助けて、害を加えない――『春秋左氏伝』僖公二十八年

①は何かに向かって進むように励ます(官にすすめて引き立てる、そうするようにとすすめる)の意味、②は力の足りないものを引き立てて助ける意味で使われている。これを古典漢語ではtsiang(呉音でサウ、漢音でシヤウ)という。これを代替する視覚記号として奬が考案された。
獎が本字で、「將(音・イメージ記号)+犬(限定符号)」と解析する。將は爿の「細長い」というイメージがコアにあるる。このイメージは「↑の形に細長く(線条的に)伸びる」というイメージ、さらに「一筋に連なるように引っ張る」というイメージに展開し、「先に立って率いる」「前に進める」という意味が生まれる(889「将」を見よ)。かくて獎は犬をけしかけて前に進める状況を設定した図形。これは図形的意匠であって意味ではない。意味は上記の①である。なお字体が犬→大に変わって奬、さらに奨となった。