「詳」

白川静『常用字解』
「形声。音符は羊。羊は羊神判に用いる獣で、その審理に当たって当事者の主張を十分に聞き調べることを詳というのであろう」

[考察]
形声の説明原理がなくすべて会意的に説くのが白川漢字学説の特徴である。「言+羊(ひつじ)」から羊神判で当事者の主張を十分に聞くこと→詳らかの意味を導く。ただし「であろう」という通り推測に過ぎない。論理的な推論ではなく、確証のない裁判の習俗を根拠にした臆測である。
詳は非常に語史が古く、次の用例がある。
①原文:中冓之言 不可詳也
 訓読:中冓の言は 詳らかにすべからず
 翻訳:寝室の睦言は 細かい所まで明かせない――『詩経』鄘風・牆有茨
②原文:其詳不可得聞也。
 訓読:其の詳は聞くを得べからざるなり。
 翻訳:その詳細は聞くことができない――『孟子』万章下

①は細かい所まで行き届いて明らかにする(隅々までくわしく述べる)の意味、②は細かい所まで行き届いている(くわしい)の意味で使われている。これを古典漢語ではziang(呉音でザウ、漢音でシヤウ)という。これを代替する視覚記号として詳が考案された。
詳は「羊(音・イメージ記号)+言(限定符号)」と解析する。892「祥」で述べたように、羊という家畜に対する古人の観念は羊の形態や用途(祭祀、食用など)から生まれ、漢字の構成要素として、「姿が美しい」「味がおいしい」「たっぷりと豊か」「めでたい」などさまざまなイメージが用いられる。そのうち「たっぷりと豊か」というイメージは「大きく広がる」というイメージにも転化する。洋にはこのイメージがある。詳は言葉が隅々までたっぷりと行き届いている状況を暗示させる図形。この図形的意匠によって上の①②の意味をもつziangを表記する。