「障」

白川静『常用字解』
「形声。音符は章。音符が章の字に、鄣(ふさぐ)、墇(ふせぐ)の字があり、遮る、ふせぐの意味がある。阜(阝)は神が天に陟り降りするときに使う神の梯の形であるから、障は神聖な所をふせぎ守るの意味となる。それで“へだてる、さえぎる”の意味となる」

[考察]
898「章」では「章は入れ墨の美しいことから“あきらか”の意味」とあり、本項では「遮る、ふせぐ」の意味があるとしている。「あきらか」と「遮る、ふせぐ」には何の関係があるのか説明がない。
また、神の梯をふせぎ守るとはどいうことか。誰が守るのか、何を遮り守るのか。釈然としない。障に「神聖な所を防ぎ守る」という意味はあり得ない。意味はただ「ふさぐ」「防ぐ」である。
古典における障の用例を見てみよう。
①原文:是障其源而欲其水也。
 訓読:是れ其の源を障(さへぎ)りて其の水を欲するなり。
 翻訳:それは水源を塞いで、水を欲しがるようなものだ――『呂氏春秋』貴直
②原文:会稽之險不能障也。
 訓読:会稽の険も障(ふせ)ぐ能(あた)はざるなり。
 翻訳:会稽山の険しさもそれを防ぐことはできない――『呂氏春秋』上徳

①は遮って通さない(ふさぐ)の意味、②は外から来るものを遮って身を守る(ふせぐ)の意味で使われている。これを古典漢語ではtiang(呉音・漢音でシヤウ)という。これを代替する視覚記号として障が考案された。
障は「章(音・イメージ記号)+阜(限定符号)」と解析する。章は「明るい」というイメージがあるが、別のイメージも生まれた。光が明るく照らすと、明るい部分と暗い部分にはっきり分かれる。明暗のけじめ(境目)ができる。ここから「境目や区切りがつく」 というイメージに転化するのである(898「章」を見よ)。図示すると―|―|の形である。視点を変えれば→|の形にもなる。これは「区切って止める」「断ち切るようにストップさせる」というイメージである。阜は盛り上げた土の形で、盛り土、土壁、段々などと関わる限定符号。限定符号は図形的意匠を作るための場面設定の働きもある。かくて障は土壁などを置いて通行を遮り止める情景を設定した図形。この図形的意匠によって上の①②の意味をもつtiangを表記する。