「衝」

白川静『常用字解』
「形声。音符は重。説文に“通道なり” とあり、字は童に従う形である。撞は撞くとよみ、衝は行(十字路の形。道)において撞撃することをいう。衝は“うつ、うちあたる”の意味」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説くのが特徴であるが、本項では重からの説明ができず、撞の仮借とするようである。
衝は古典に次の用例がある。
①原文:及衝、擊之以戈。
 訓読:衝に及び、之を撃つに戈を以てす。
 翻訳:十字路に至ると、ほこで撃ちかかった――『春秋左氏伝』昭公元年
②原文:進而不可禦者、衝其虛也。
 訓読:進みて禦(ふせ)ぐべからざる者は、其の虚を衝けばなり。
 翻訳:進軍して防禦できない軍は、その隙を突かれたからである――『孫子』虚実

①は町を突き抜ける大通りの意味、②は突き通す、突き当たるの意味で使われている。これを古典漢語ではt'iung(呉音でシュ、漢音でショウ)という。これを代替する視覚記号として衝が考案された。
衝は「重(音・イメージ記号)+行(限定符号)」と解析する。重は東を含み、東にコアイメージの源泉がある。東は「突き通す」というイメージがあり、これは「上から下に↓の形に突く」というイメージに展開する。重にも「突き通す」「上から下に突く」というコアイメージがある(824「重」を見よ)。視点を変えれば「↓」(上から下へ、垂直)のイメージは「→」(左右に、横、水平)のイメージにもなる。行は十字路の形で、道や歩行・進行と関係があることを示す限定符号。かくて衝は突き抜けて通っている道、あるいは、四方に突き通る十字路を暗示させる図形である。この図形的意匠によって上の①を意味するt'iungを表記する。
「突き通す」というコアイメージがそのまま文脈に現れたのが②の用法である。これが衝突の衝(突き当たる、衝く)の意味である。