「状」
正字(旧字体)は「狀」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は爿しょう。爿はこの字の場合は版築に使用する板の形。版築のとき、犠牲の犬を供えて、建築物の規模や状況を定めたものと想われ、現在の状況や将来の予想を意味する語となり、“ようす、ありさま、さま” の意味となる」

[考察]
877「床」では「爿は寝台の形」、889「将」では「爿は脚のついた几(机)の形」とある。本項では版築用の板の形とし、不統一である。「版」の項では「片は版築のときに使用する板の形」とあり、片ヘンと爿ショウを同一視している。
字形の解釈から「現在の状況や将来の予想を意味する語」、これから「様子」の意味を導くが、意味展開に必然性がない。
字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法であるが、これは誤った方法である。というのは言語学に反するからである。言語学では言葉(記号素)は音と意味の結合体と定義され、意味は言葉に内在する概念とされる。言葉という聴覚記号を、視覚記号という本質的に異なる記号(図形)に変換したものが文字である。文字は言葉を代替し再現する働きはあるが、文字の形が意味そのものを本来的に持っているわけではない。字形から意味を導くと誤ることが多い。意味は言葉が使用される具体的な文脈から判断し理解するしかない。
狀は次のような文脈で使われている。
 原文:是謂無狀之狀、無物之象。
 訓読:是を無状の状、無物の象と謂ふ。
 翻訳:これ[宇宙の始めのカオス]を形なき形、物なき姿というのだ――『老子』第十四章
狀は物の姿・形・様子の意味で使われている。これを古典漢語ではdzïang(呉音でジヤウ、漢音でシヤウ)という。これを代替する視覚記号として狀が考案された。
狀は「爿ショウ(音・イメージ記号)+犬(限定符号)」と解析する。爿はベッドの形であるが、実体に重点があるのではなく形態に重点があり、「細長い」というイメージが取られる(877「床」、889「将」を見よ)。「細長い」は「丈が長い」「形がスマートである」というイメージにもなる(「壮」で詳述)。犬は犬に関わる限定符号。限定符号は図形的意匠を作るための場面設定の働きがある。その場合しばしば比喩的に使われる。ある種の犬の特徴は細長い胴体をもっていることである。したがって狀は犬に関わる場面や情景が設定され、犬の胴体のような細長くスマートな形という意匠が作られ、この図形的意匠によって「物の姿・形・様子」を意味するdzïangの表記とした。