「娘」

白川静『常用字解』
「形声。音符は良。もとの字は孃に作り、音符は襄。襄にはふくらむの意味があり、胸のふくらんだ女、肉づきのゆたかな女を孃といい、“はは、むすめ” の意味となる。のち隋・唐代のころから娘の字を使うようになった」

[考察]
娘を孃と同字と見て孃から説明しているが、娘の字源も必要なのに放棄している。
娘は六朝時代の文献に初めて登場する。
 原文:見娘喜容媚
 訓読:娘を見て容媚を喜ぶ
 翻訳:少女を見て顔の美しさが気に入る――『楽府詩集』巻四十四
娘は若い女の意味で使われている。これを当事の漢語ではniang(呉音で二ヤウ、漢音でヂヤウ)といい、娘と表記された。
娘は「良(音・イメージ記号)+女(限定符号)」と解析する。良は「澄み切って汚れがない」というイメージがある(「良」で詳述する)。娘はまだけがれを知らない女を暗示させる。
嬢と娘は字源も意味も違う(939「嬢」を見よ)。娘を「父母から生まれた女(むすめ)」の意味に使い、嬢を「他人の若いむすめ(お嬢さん)」の意味で使うのは日本的展開である。