「場」

白川静『常用字解』
「形声。音符は昜よう。昜は玉(日)を台(一)の上に置き、玉の光が下方に放射する形。昜は霊の力を持つと考えられた玉によって、人の精気を盛んにし、豊かにする魂振りの儀礼をいい、その儀礼の行われるところを場という。また神を祭るところを場といった。“祭りの場にわ”がもとの意味であるが、のち“はたけ、とりいれば、あきち、ばしょ”の意味に用いる」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説くのが特徴である。昜(魂振りの儀礼)+土→魂振りの儀礼の行われる所という意味を導く。
昜の解字に疑問がある。日を玉とするのも奇妙だが、玉の光が放射する形から魂振りの儀礼という意味になるだろうか。昜にこんな意味はあり得ない。だから場に「魂振りの儀礼が行われる所」という意味もあり得ない。
意味とは「言葉の意味」であって、字形から出るものではない。言葉の使われる文脈から出るものである。場の古典における用例を見てみよう。
①原文:十月滌場
 訓読:十月場を滌ふ
 翻訳:十月に籾打ち場を洗う――『詩経』豳風・七月
②原文:今有場師、舍其梧檟、養其樲棘、則爲賤場師焉。
 訓読:今場師有り、其の梧檟を舎(す)てて、其の樲棘を養へば、則ち賤場師と為す。
 翻訳:ここに庭師がいて、アオギリ・キササゲを捨てて、サネブトナツメを育てたとすれば、それは下手な庭師である――『孟子』告子上
③原文:築室於場。
 訓読:室を場に築く。
 翻訳:建物を広場に築いた――『孟子』滕文公上

①は作物を干したり脱穀したりする農作業をする場所の意味、②は庭の意味、③はからりと開けた場所、また、人が集まる広い場所(広場)の意味で使われている。これを古典漢語ではdiang(呉音でヂヤウ、漢音でチヤウ)という。これを代替する視覚記号として場が考案された。
場は「昜ヨウ(音・イメージ記号)+土(限定符号)」と解析する。昜は「日+丂(上に伸びていくことを示す符号)+彡(光が発散する形)」を合わせて、日が空高く昇る情景を設定した図形(「陽」で詳述する)。昜は「高く上がる」「明るく四方に広がる」「平らに開ける」というイメージを表す記号になる。したがって場は平らに開けた土地を暗示させる。この図形的意匠によって①~③の意味をもつdiangを表記する。