「色」

白川静『常用字解』
「会意。人と卩とを組み合わせた形。卩は跪く人の形であるから、人の後ろからまた人が乗る形で、人が相交わることをおいう。色は人が相交わるときのような感情の高揚する意味に用い、むっとして怒った表情になることを気色ばむのようにいう。高揚した感情は表情、顔いろに表れるので、顔いろの意味となる」

[考察]
字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。人+卩(跪く人)→人の後ろからまた人が乗る(人が相交わる)→人が相交わる時のような感情の高揚するという意味を導く。
 字形の解釈と意味を混同するのが白川漢字学説の特徴である。「人が相交わる時のような感情の高揚する」というのは字形の解釈であろう。このような意味は色にはない。
意味とは「言葉の意味」であって字形に属する概念ではない。意味は言葉の使われる文脈から判断し理解するものである。色は古典に次の用例がある。
①原文:少之時、血氣未定、戒之在色。
 訓読:少(わか)き時は、血気未だ定まらず、之を戒しむるは色に在り。
 翻訳:若い時は血気がまだ落ち着かないから、性欲を戒めとする――『論語』季氏
②原文:賢賢易色。
 訓読:賢を賢として色を易(あなど)る。
 翻訳:[妻に対しては]賢明さを大切にし、容色は二の次とする――『論語』学而
③原文:令儀令色 小心翼翼
 訓読:令儀・令色あり 小心翼翼たり
 翻訳:姿・顔色はうるわしく 心細やかに恭しい――『詩経』大雅・烝民

①はセックスの意味、②はセクシーな姿(容色、色気)の意味、③は顔に現れた様子(顔色)の意味で使われている。これを古典漢語ではsïәk(呉音でシキ、漢音でソク)という。これを代替する視覚記号として色が考案された。
色は卩(跪く人)を上下に配置した図形である。これは男女がセックスをする姿を暗示させる。この図形的意匠にによって上の①の意味をもつsïәkを表記する。
色情・好色の色が最初の使い方(すなわち意味)である。これから②③の意味に展開する。③から外に現れた物の様子の意味(景色・特色の色)、また、外に現れるいろ(カラー)の意味(色彩の色)を派生する。