「食」

白川静『常用字解』
「象形。食器として使用される𣪘の形。皀きゅうがその器の形で、その器の上に蓋をすると食の形となる。食は食器の中の“たべもの” の意味となる」

[考察]
字形から意味を導くと「食器の中の食べ物」という意味になる。しかしこれは字形の解釈であろう。図形的解釈と意味を混同するのは白川漢字学説の全般的な特徴である。そうすると余計な意味素が意味の中に含まれることが多い。「食器」は余計な意味素である。
意味とは「言葉の意味」であることは言語学の常識である。言語学では言葉(記号素)は音と意味の結合体と定義される。意味は言葉に内在する概念である。意味は字形から出るのではなく、言葉が使われる文脈から出る。食は次のような文脈で古典に現れる。
①原文:園有棘 其實之食
 訓読:園に棘有り 其の実を之(こ)れ食ふ
 翻訳:園にサネブトナツメが生えていて 酸っぱいその実を食った――『詩経』魏風・園有桃
②原文:自我徂爾 三歲食貧
 訓読:我の爾に徂(ゆ)きし自(よ)り 三歳食貧し
 翻訳:お前さんのもとに嫁いでから 三年間食べ物が貧しかった――『詩経』衛風・氓

①はたべる意味、また、食事をする意味、②は食べ物、また、飯の意味である。これを古典漢語ではdiәk(呉音でジキ、漢音でショク)という。これを代替する視覚記号として食が考案された。
食は「亼+皀」に分析できる。亼は寄せ集めることを示す符号である。皀は卽(=即)・既(=既)・節(=節)にも含まれており、食べ物を器に盛り上げた形。したがって食は食べ物を器の中に集めて盛りつける情景を設定した図形である。これは図形的意匠(図案、デザイン)であって意味ではない。①②の意味をもつdiәkを表記するための図形的な工夫である。
「たべもの」は自然界のものを人工化したものであり、「たべる」という行為は自然界のものを加工して体内に取り込むことである。だからdiәk(食)という言葉には「手(人工)を加える」というコアイメージがあり、式・以・台(治・飴・冶など)と同源の語である。食のコアイメージは飾(手を加えてうわべを飾る)や飭チョク(手を加えて整える)によく生きている。