「植」

白川静『常用字解』
「形声。音符は直。直は省と乚いんとを組み合わせた形。省は目に飾りをつけ、地方を巡察して不正を取り締まることをいう。乚は隠れるの意味。ひそかに調べて不正をただすことを直といい、ただす、正しい、まっすぐの意味となる。木を樹えるとき、まっすぐに立てることを植という」

[考察]
直の字解と意味に疑問がある。これについては「直」の項で述べる。
直を「まっすぐ」の意味とし、植を「まっすぐ立てる」から「うえる」の意味を導くのは妥当である。形声の説明原理を持たないのが白川漢字学説の特徴であるが、本項は珍しく形声の説明原理に叶っている。ただし字形から意味を導く手法は変わっていない。
字形ではなく言葉から出発すべきである。植は古典で次の用例がある。
①原文:季孫與邑人爭門關、決植。
 訓読:季孫、邑人と門関を争ひ、植を決す。
 翻訳:季孫[人名]は村人と門の錠前を奪い合って、柱を断ち切った――『墨子』非儒
②原文:壤地肥饒則桑麻易植也。
 訓読:壌地肥饒なれば則ち桑麻植ゑ易きなり。
 翻訳:土地が肥えていれば桑と麻は植えやすい――『管子』八観

①は門を閉じるために立てる木の棒や柱の意味、②は草木をまっすぐ立ててうえる意味で使われている。これを古典漢語ではdhiәk(呉音でジキ、漢音でショク)という。これを代替する視覚記号として植が考案された。
植は「直(音・イメージ記号)+木(限定符号)」と解析する。直の古い形は「|(縦線)+目」を合わせて、目を直線的に(まっすぐに)向ける情景を設定した図形。この意匠によって「まっすぐ」のイメージを表すことができる。植は木をまっすぐに立てる情景を設定した図形。この図形的意匠によって上の①②の意味をもつdhiәkを表記する。