「嘱」
正字(旧字体)は「囑」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は屬(属)。属は尾(牝の獣)と蜀(牡の獣)とを組み合わせた形で、牝牡相属つらなること、交尾することをいう。それで相連なること、つづくことを属、いいつけてそのことを行わせることを嘱という」

[考察]
まず屬の解字がおかしい。なぜ尾が牝の獣、蜀が牡の獣か、根拠がない。そんな意味がない。「交尾する」から逆に類推して牡と牝の獣にしたのであろう。
次に「交尾する」から「相連なる」の意味になるのは分かるが、なぜ「言いつけてそのことを行わせる」という意味が出るのか分からない。必然性がない。
白川漢字学説は言葉という視点がないから、言葉の意味展開を説明する理論を欠く。
囑は屬から分化した字で、後漢以後に現れる。囑は屬の字源・語源の問題である。屬には次の用例がある。
 原文:宋穆公疾、召大司馬孔父而屬殤公焉。
 訓読:宋の穆公疾む、大司馬孔父を召して殤公を属ショクせしむ。
 翻訳:宋の穆公は病気になり、大司馬の孔父を召して、殤公のことを頼んだ――『春秋左氏伝』隠公三年
屬ショクは頼み事をする意味で使われている。この意味の場合、屬は後に囑ショクと書かれるようになった。 
屬は「蜀(音・イメージ記号)+尾(限定符号)」と解析する。蜀は「一所(一点)にくっついて離れない」というイメージを示す記号である(948「触」を見よ)。尾はしっぽに関係があることを示す限定符号。限定符号は図形的意匠を作るための場面設定の働きがある。屬は動物が交尾してくっつく場面を設定した図形である。図形的意匠は意味と同じではない。「二つがくっついてつながる」「くっつけて離さない」「くっつける」というイメージを表すのである。ここから囑の意味につながる。
囑は「屬ショク(音・イメージ記号)+口(限定符号)」と解析する。屬は「くっつける」というイメージがある。図示するとA-Bの形だが、A→Bの形にくっつけることでもある。これはAからBに近づける、くっつけようと寄せるというイメージである。囑は相手に口を寄せて何かを頼む情景を設定している。頼み事を相手に押しつけることをtiuk(呉音でソク、漢音でショク)といい、最初は屬(=属)、後に囑(=嘱)と書いた。