「職」

白川静『常用字解』
「形声。音符は戠。戠は戈に飾りをつけた形で、赤い織物などをつけてしるしとするという意味があった。戦場で討ちとった敵の左耳を切り取って戦功の証拠とするが、その左耳に帛きぬの識しるしをつけることを示しているのが職である。識をつけて戦功を取り扱うことを職というので、“つかさどる” の意味となる」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説くのが特徴である。戠(赤い織物などをつけてしるしとする)+耳→戦場で切り取った敵の左耳に帛のしるしをつける→しるしをつけて戦功を取り扱うという意味を導く。
字形から意味を導き、字形の解釈をストレートに意味としている。図形的解釈と意味を混同するのが、白川漢字学説の全般的特徴である。
戠に「赤い織物などをつけてしるしとする」という意味はないし(意味はただ「しるし」)、職に「識をつけて戦功を取り扱う」という意味もない。意味とは「言葉の意味」であって字形から来るのではなく、言葉の使われる文脈から来るものである。職は古典に次の用例がある。
①原文:能者在職。
 訓読:能ある者、職に在り。
 翻訳:能力のある者がその仕事に就いている――『孟子』公孫丑上
②原文:述職者述所職也。
 訓読:述職とは職とする所を述ぶるなり。
 翻訳:述職とは専ら担当していることを報告するという意味だ――『孟子』梁恵王下

①はその人の本文として専ら担当する仕事の意味、②は責任を負って仕事を担当する(つかさどる)の意味である。これを古典漢語ではtiәk(呉音でシキ、漢音でショク)という。これを代替する視覚記号として職が考案された。
職は「戠ショク(音・イメージ記号)+耳(限定符号)」と解析する。戠は「見分けるための目印」「目印で区別する」「区別して見分ける」というイメージを示す記号で(950「織」を見よ)、「見分けて違いを区別する」というイメージにもなる。耳は耳や聞くことと関係があることを示す限定符号。したがって職は自分(ある人)の能力に合った仕事を聞き分けて、それを専ら担当する(担当させる)状況を設定した図形である。この図形的意匠によって上の①②の意味をもつtiәkを表記した。