「心」

白川静『常用字解』
「象形。心臓の形。古くは心臓が生命の根源であるとともに、思考する場所であると考えられていた」

[考察]
心の字源に異説はない。心臓→こころという意味展開にも異説はない。
心を語源から説明したのは少ない。後漢の劉熙は「心は繊なり。識る所繊微にして、物として貫かざるは無きなり」(『釈名』釈形体)と語源を説いている。「心は繊(細かい)なり」はこころ(精神)の細かい働きに着目したもの。精神や思考という機能から心を捉えているが、これは転義であって、心臓がなぜsiәm(呉音・漢音でシム)と名づけられたかの説明にはなっていない。心臓の機能から説明したのは藤堂明保である。藤堂は心は侵・浸・寝・簪・譖・僭・潜・蚕・滲などと同じ単語家族に属し、これらはTSÊM・SÊPという音形と、「細い所に入り込む」という基本義があるという(『漢字語源辞典』)。
この語源説が妥当である。心臓が血液を体のすみずみまで送る機能に着目してsiәmと命名された。この語は特に浸(じわじわとしみる)や滲(じわじわとにじむ)と近く、「じわじわとしみる」というコアイメージがある。沁シン(じわじわとしみる)という語に心のコアイメージがよく生きている。