「申」

白川静『常用字解』
「象形。稲妻(電光)の形。稲妻は天にある神がその威光をあらわした形である、神の発するものであると考えられたから、“かみ” の意味となり、申は神のもとの字である」

[考察]
『説文解字』では「申は神なり」とあるが、古典では神に用いた用例がない。甲骨文字では十二支の第九位に用いられている。古典における申の用例を見てみよう。
①原文:夏四月丙申、鄭季姬卒。
 訓読:夏四月丙申、鄭の季姫卒シュツす。
 翻訳:四月ひのえさるの日、鄭の季姫が死んだ――『春秋』僖公十六年
②原文:衣焦不申。
 訓読:衣焦げて申(の)びず。
 翻訳:衣が焦げたように縮んで伸びない――『戦国策』魏策
③原文:申之作康誥。
 訓読:之を申べて康誥を作る。
 翻訳:それを展開させて述べ、康誥[書経の一篇]を作った――『史記』周本紀

①は十二支の第九位の意味、②は長く伸びる意味、③は言葉を次々に重ねて展開させる(のべる)の意味に使われている。これを古典漢語ではthien(呉音・漢音でシン)という。これを代替する視覚記号として申が考案された。
申は甲骨文字と金文では稲光を描いた図形であるが、篆文では字体が「|(縦棒)+𦥑(両手)」に変わった。両手で棒をまっすぐ伸ばす状況を暗示させる図形である。稲光の図形も「長く伸ばす・伸びる」というイメージを表している。「長く伸ばす・伸びる」というイメージは、・・・・(点)の状態が――(線)になると考えれば、「一つまた一つと(点々と、次々に)重なるようにして伸びていく」というイメージでもあり、ここから「重なる」というイメージも生まれる。申は「重なる」という意味もある。かくて上の③の意味が実現され、さらに、上位者に意見や理由などを述べる(申す)という意味を派生する。申告・答申の申はこれである。