「娠」

白川静『常用字解』
「形声。音符は辰。辰は蜃(はまぐり)のもとの字で、はまぐりなどの貝が足を出して動いている形で、動くの意味がある。腹の中の子が動くのを娠といい、“はらむ、みごもる”の意味となる」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説く特徴があるが、本項は珍しく形声の説明原理にかなっている。ただし字形から意味を導く手法には変わりがない。
言葉という視点から考える必要がある。娠は次の用例がある。
 原文:后緍方娠。
 訓読:后緍コウビン方(まさ)に娠(はら)む。
 翻訳: 后緍[人名]はちょうどはらんでいた――『春秋左氏伝』哀公元年
娠は胎児を宿す意味で使われている。これを古典漢語ではthien(呉音・漢音でシン)という。これを代替する視覚記号が娠である。辰は「弾力性があってぶるぶると震え動く」というコアイメージを表す記号である(963「唇」を見よ)。娠は女がはらんで胎児がぴくぴく動く(胎動する)状況を暗示させる。