「針」

白川静『常用字解』
「形声。もとの字は鍼に作り、音符は咸。針は十に従うが、十は|(針の形)の中ほどに、糸を通す小さなな穴を示す肥点(●)を加えた形がのち十の字となった。“ぬいばり” の意味である。鍼・箴は治療用のはりである」

[考察]
鍼は古典時代(周代、先秦時代)に現れるが、針は漢代以後に現れる字である。裁縫用の「はり」も医療用のはりも区別なく古典漢語ではtiәm(呉音・漢音でシム)という。これを最初は鍼で、後に針で表記した。
白川は鍼の字源を明らかにしていない。針については十の部分が「はり」の形だという。|の中ほどに糸を通す穴を示して十の形になったというが、針の中間に穴を開けるというのは変である。理屈に合わない。
まず鍼について。これは「咸(音・イメージ記号)+金(限定符号)」と解析する。咸は「戌(武器)+口(くち)」を合わせて、武器でおどして刺激やショックを与える状況を作り出した図形である(232「感」、494「減」を見よ)。「外からの刺激が心や体の内部に入る」というイメージを表す記号である。これには「強いショックを与える」と「内部に閉じ込められて出ていかない(ふさがる)」という二つのイメージが含まれる。後のイメージは減や封緘の緘(ふさぐ、閉じる)を成立させる。「閉じ込める」「封じ込める」「ふさぐ」というイメージを利用して、鍼は布と布をとじ合わせて、その隙間をふさぐ金属製の道具を暗示させる。
次に針について。これは「十(音・イメージ記号)+金(限定符号)」と解析する。十は「いくつかの物を合わせて締めくくる」というイメージがあり(819「十」を見よ)、このイメージは「まとめて一つに合わせる」「とじ合わせる」というイメージに展開する。針は鍼と同じ図形的意匠を作ることができる。