「紳」

白川静『常用字解』
「形声。音符は申。申は稲妻(電光)の形で、稲妻は屈折しながら斜めに走るものであるから、のびるの意味となる。長く垂れた礼装の帯を紳といい、礼服の大帯、“おおおび”をいう」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなくすべて会意的に説くのが特徴であるが、本項は形声の説明原理にかなっている。
紳は「申(音・イメージ記号)+糸(限定符号)」と解析する。申は稲光の形であるが、実体に重点があるのではなく、形態に重点がある。瞬間的に光線が延びていく現象に着目して、申は「長く伸びる」というイメージを表すことができる(954「申」を見よ)。糸は糸・布・織物などと関係があることを示す限定符号である。紳は布の一端が長く伸びて垂れ下がる帯を暗示させる図形。この図形的意匠によって、古代の官僚や儒者の正装に用いる大帯を意味する古典漢語thien(呉音・漢音でシン)を表記した。
紳を着用する官僚や儒者を「搢紳の士」と言ったところから、地方の官吏や有力者を紳士と言うようになった。日本ではgentlemanの訳語として紳士が定着した。