「森」

白川静『常用字解』
「会意。木を三本組み合わせた形。木を三本組み合わせて、“もり、しげる” の意味となる」

[考察]
森は「もり」の意味があるだろうか。なさそうである(『漢語大字典』『漢語大詞典』)。森を「もり」と読むのは日本的展開のようである。木が三つ(たくさん)ある字面から日本人は「もり」を連想したのではなかろうか。古典漢語では林が「もり」の意味である。
では森はどのような意味なのか。森の出現するのは遅く、漢代以後である。次の用例がある。
 原文:森尊尊而刺天
 訓読:森シンとして尊尊として天を刺 す
 翻訳:[樹木は]こんもりと群がり生えて天を衝くほどだ――『漢魏六朝百三家集』巻十四・張衡「南都賦」
森は木がこんもりと茂るさまという意味で使われている。これをsïәm(呉音・漢音でシム)といい、森と表記した。木を三つかさねて、この言葉の視覚記号としたのは理にかなう。
なぜsïәmというのかは語源の問題である。この語は三・参・杉などと同源であり、これらは「(多くのものが)入り交じる」というコアイメージがある。樹木が茂った状態はまさに多くのものが入り交じるというイメージであるから、これらの語群との同源意識からsïәmというのである。
白川は「森は神の住む所とされ、それで神の気配を感じるようなおごそかな様子を森厳という」と述べているが、見当違いの意味展開の説明である。木がこんもりと茂った状態から、こんもりとして薄暗いという意味に転じ、暗くて静まりかえっている状態を森厳というのである。

(余談)森は小学一年で習う漢字である。森に「もり」の意味がないからといって、子どもに古典から説明するわけにはいかないだろう。漢字学習には便宜的方法というものがあってよい。漢字の日本的展開から字形を説明してかまわない。しかし学問的に漢字論を述べたり、字書を作る場合は古典を根拠に記述すべきである。