「診」

白川静『常用字解』
「形声。音符は㐱しん。㐱は人体に彡を加えている形で、人の体に発疹のできている形。これは体内に病気のある前ぶれであるから、その病む所を診ることを診という」

[考察]
形声の説明原理がなくすべて会意的に説くのが白川漢字学説の特徴である。㐱(人体に発疹ができる)+言→病む所を診るという意味を導く。
発疹ができることから病気を診るという意味が出るだろうか。必然性がない。だいたい㐱に発疹といった意味はない。字形の勝手な解釈である。
診の古典における用例を診てみよう。
①原文:匠石覺而診其夢。
 訓読:匠石覚めて其の夢を診(つ)ぐ。
 翻訳:大工の石さんは目が覚めて自分の見た夢の内容をつぶさに話した――『荘子』人間世
②原文:試入診太子。
 訓読:試みに入りて太子を診る。
 翻訳:部屋に入って太子の病状を診察してみた――『史記』扁鵲列伝

①はよく調べてつぶさに述べる(告げる)の意味、②は病状をよく調べて見る意味で使われている。これを古典漢語ではtien(呉音・漢音でシン)という。これを代替する視覚記号として診が考案された。
tien(診)という語は真・身・実・至などと同源で、これらは「いっぱい詰まる」という基本義があるというのは藤堂明保の説である(『漢字語源辞典』)。「いっぱい詰まる」というイメージは「すみずみまで(全部)行き尽くすというイメージに転化する。診はある事態・事情についてすみずみまで調べ尽くして述べることである。これが上の①の意味である。
診は「㐱シン(音・イメージ記号)+言(限定符号)」と解析する。㐱については『説文解字』で「稠髪なり」とあり、『詩経』の「㐱髪雲の如し」という詩句を引用している。現在の『詩経』のテキストでは鬒髪になっている。鬒はびっしり生えている髪の意味である。㐱は「人+彡(髪の毛)」を合わせた図形でびっしり生えた髪の毛を暗示させる。これは「稠密で細かい」というイメージ、また「いっぱい詰まる」というイメージを表すことができる。かくて診は物事をすみずみまで細かく調べてその結果を述べる状況を暗示させる。この図形的意匠によって上の①②の意味をもつtienを表記した。