「薪」

白川静『常用字解』
「形声。音符は新。新は把手のついた大きな針(辛)を投げて位牌を作る木を選び、その木を斤おので切ることをいう。位牌を作った残りの木を薪といい、火祭りのときの“たきぎ” として使用された。神事に使用する“たきぎ”の意味からのちすべて“たきぎ、しば”の意味に用いる」

[考察]
新の字形と意味の解釈の疑問については976「新」で述べた。
位牌が出てくること自体に疑問があるが、位牌を作った残りの木が「たきぎ」の意味になるとは、意味展開に必然性がない。それを回避するために神事用にくべる木だというが、位牌の残りをくべるだろうか。これも疑わしい。だいたい薪に「神事用に用いるたきぎ」という意味はない。薪は古典で次の用例がある。
 原文:析薪如之何 匪斧不克
 訓読:薪を析くに之を如何(いかん)せん 斧に匪(あら)ざれば克(よ)くせず
 翻訳:たきぎを割るにはどうすべき 斧がなければ始まらない――『詩経』斉風・南山
薪は燃料にするために切り出す木(たきぎ)の意味で使われている。これを古典漢語ではsien(呉音・漢音でシン)といい、そのための視覚記号として薪が考案された。
薪は「新(音・イメージ記号)+艸(限定符号)」と解析する。辛→ 亲→新→薪と四段階で生まれる字である。辛は刃物の形で、「切る」「断ち切る」というイメージを示す記号で、これが四字の基幹記号である。亲は木を切る場面、新は斧で木を切る場面を設定した図形(976「新」を見よ)。したがって薪は切った木を暗示させる図形である。艸(くさ)が限定符号だが、広く草木、植物に拡大できる。