「仁」

白川静『常用字解』
「会意。古い字形は人の腰の下に小さく二の形を加える。二はおそらく衽席(しきもの)の形であろう。 仁は人が敷物の上に座る形で、暖か、なごむの意味となり、のち“いつくしむ、めぐむ”の意味となった」

[考察]
形声の説明原理がなく会意的に説くのが白川漢字学説の特徴である。人+二(しきもの)→人が敷物の上に座る→暖か→いつくしむとい意味を展開させる。
「暖か」から「いつくしむ」の意味を導くのは唐突であり、意味展開に必然性がない。
字形分析を誤っている。「二(音・イメージ記号)+人(限定符号)」と解析すべきである。これを説明する前に意味を確かめよう。古典に次の用例がある。
①原文:其人美且仁
 訓読:其の人美にして且つ仁なり
 翻訳:その人は美しくて優しいかただ――『詩経』斉風・盧令
②原文:巧言令色、鮮矣仁。
 訓読:巧言令色、鮮(すくな)きかな仁。
 翻訳:言葉がうまく外見をよく見せようとする人には仁が少ない――『論語』学而

①は他人と親しみ性情が優しい意味、②はどんな人をも仲間として受け入れ愛すること(他者への思いやり)という意味で使われている。これを古典漢語ではnienという。これを代替する視覚記号として仁が考案された。
仁は上記のように解析する。二(nier)はnienと類似の音である(語尾を入れ換えただけ)。人(nien)は同音であるが限定符号として用いられている。だから二が音・イメージ記号である。二は「▯―▯の形に二つ並ぶ」というイメージがある。視点を変えれば「▯→←▯の形にくっつく」というイメージにもなる。仁は人と人がくっついて親しみ合う状況を暗示させる図形である。この意匠によって①の意味をもつnienを表記する。②の意味は孔子教団(儒教学派)が哲学用語に高めた概念である。