「尽」
正字(旧字体)は「盡」である。

白川静『常用字解』
「会意。聿と皿と水滴の形とを組み合わせた形。聿は小さな枝のような棒を手(又)に持つ形。細い棒で水を入れた皿の中を洗う形で、洗いつくすことをいう」

[考察]
字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。聿(棒を手に持つ)+皿(さら)+水滴→細い棒で水を入れた皿の中を洗う→洗いつくすという意味を導く。
字形分析に疑問がある。「灬」は火であって水ではない。また、皿の中を棒で洗うという解釈は変である。また、洗うことからなぜ「洗い尽くす」が出るのか。意味展開に必然性がない。
意味は「言葉の意味」であって字形からは出てこない。言葉の使われる文脈から出るものである。盡は次のような文脈で使われている。
①原文:盡瘁以仕 寧莫我有
 訓読:尽瘁して以て仕へしに 寧(すなは)ち我を有(かば)ふこと莫し
 翻訳:へとへとになるまで力を尽くして仕えたのに 誰も私をかばってくれなかった――『詩経』小雅・四月
②原文:盡信書則不如無書。
 訓読:尽(ことごと)く書を信ずれば則ち書無きに如かず。
 翻訳:みんなが書経を信じるなら、書経はないほうがましだ――『孟子』尽心下

①は全部出しつくす(すっかりなくなる)の意味、②は全部(ことごとく)の意味で使われている。これを古典漢語ではdzien(呉音・漢音でジン)という。これを代替する視覚記号として盡が考案された。
盡は「㶳ジン(音・イメージ記号)+皿(限定符号)」と解析する。聿は筆の聿とは違い、Yの逆形のような形に又(手)を合わせたもの。これに火を添えたのが㶳である。火箸を持って火をあしらう場面を設定した図形で、燃えかすを意味する灰燼の燼の原字である。燃えかすという実体よりもその形態に重点を置き、「あったものが全部なくなる」というイメージを表すことができる。かくて盡は皿にあった食べ物が食べられて全部なくなる情景を設定した図形である。この図形的意匠によって上の①を意味するdzienを表記した。