「迅」

白川静『常用字解』
「形声。音符は卂じん。卂は説文に“疾く飛ぶなり。飛に従うて、羽見えず”とあり、唐本説文には“隼は卂の省に従ふ” とあるので、卂は隼はやぶさの飛ぶ形を写したようである。それで迅は“はやい、はげしい”の意味となる」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説く特徴がある。卂(はやぶさが飛ぶ)+辵→はやいという意味を導く。
形声文字CはC=「A(音・イメージ記号)+B(限定符号)」という方程式を取る。Aは言葉の深層構造に関わる部分、Bは意味の領域を指定する符号である。Aに意味の根源があり、Bは必ずしも意味素に入らない。形声の説明原理とは言葉の深層構造に掘り下げ、Aのコアイメージを捉え、語源的に意味を説明する原理である。
まず迅がどんな文脈で使われているかを見てみよう。
 原文:迅雷風烈、必變。
 訓読:迅雷風烈には、必ず変ず。
 翻訳:[孔子は]急に鳴る雷や突風があると、必ず態度を変えた――『論語』郷党
迅は速度が速い意味で使われている。これを古典漢語ではsiuәn(呉音・漢音でシン)という。これを代替する視覚記号として迅が考案された。
『説文解字』では「迅は疾なり」とある。迅と疾は同源の語である。ほかに進・晋・秦・信などとも同源で、これらは「速く進む」というコアイメージがある。
迅は「卂(音・イメージ記号)+辵(限定符号)」と解析する。卂とは何か。白川の引用した『説文解字』にもある通り、飛の中だけを取って周りを省略した図形で、羽が見えないほど速く飛ぶことを暗示させている。この卂によって上で述べた「速く進む」というコアイメージを表すことができる。辵は歩行・進行に関わる限定符号である。したがって迅は速く走る情景を暗示させる。しかしそんな意味ではなく、「速い」を意味するsiuәnの表記とした。