「炊」

白川静『常用字解』
「会意。欠は口を開いて立つ人を横から見た形。炊は火に息をふきかけている形で、火に空気を送って火の勢いを盛んにして煮炊きすることをいい、“めしをたく、たく、かしぐ” の意味に用いる」

[考察]
「欠(口を開いて立つ人)+火」から「火に空気を送って火の勢いを盛んにして煮炊きする」という意味が出てくるだろうか。単純な字形から夥多な情報を読み取っている。
意味は字形から出るものではなく言葉の使われる文脈から出るものである。炊は次のような文脈で使われている。
 原文:嫂不爲炊。
 訓読:嫂(あによめ)為に炊(かし)がず。
 翻訳:兄嫁は彼のために飯をたいてくれなかった――『戦国策』秦策
炊は食物を煮炊きする意味で使われている。これを古典漢語ではt'iuәr(呉音・漢音でスイ)という。これを代替する視覚記号が炊である。
煮炊きする行為の前提として火を吹くという行為がある。炊と吹は同源の語で、炊は吹から分化した字である。
炊は吹の限定符号を火に入れ換えたものである。だから「吹の略体(音・イメージ記号)+火(限定符号)」と解析する。炊は火をふうと吹く情景を設定した図形である。この意匠によって食物をたく意味をもつt'iuәrを表記する。